Leap Motion で手の回転状態を取得する

Leap Motion Controller の公式 SDK では、手の回転の状態をオイラー角で取得できるようになっています。
具体的には、Hand.Direction (Vector オブジェクト) の Yaw, Pitch, Roll プロパティが用意されています。
ただし、Hand クラスの説明を参照すると、 ロールについては Direction.Roll ではなく PalmNormal.Roll を使うように書かれています。

float pitch = hand.Direction.Pitch;
float yaw = hand.Direction.Yaw;
float roll = hand.PalmNormal.Roll;

しかし、これらの値を使って実装してみても、期待通りの動作にはなりません。

そこで、前回の 3D における回転の表現と相互変換の内容をもとに、手の回転の状態を取得する機能を自作しました。

Hand.Direction と Hand.PalmNormal はともに長さ 1 で直交しているため、
これらをそれぞれ (0, 0, -1) と (0, -1, 0) の回転後のベクトルと見なして、
前回作成した Rotation3DHelper クラスを利用してオイラー角を求めれば OK です。

全体のソースコードは HandRotationLeap (GitHub) にあります。
このサンプルでは、手とさいころの回転の状態を同期させています。

Hand Rotation by Leap Motion Controller

前回: 3D における回転の表現と相互変換

バージョン情報
.NET Framework 4.5
Leap Motion SDK 2.3.1

参照
Hand クラス

3D における回転の表現と相互変換

以前に投稿した WPF で 3D オブジェクトを回転させるではオブジェクトの回転の状態を行列で表していましたが、
3 次元空間における回転を表現する方法は、次のように何通りか考えられます。
なお、原点を中心に回転させるものとし、回転角度は、回転軸を表すベクトルの方向に右ねじを押し込む場合を正とします。

  1. 行列
    • 3 次正方行列。とくに、回転を表すものは直交行列であり、P^{-1} = {}^t P が成り立つ
    • WPF では Matrix3D 構造体
  2. 四元数 (クォータニオン)
  3. オイラー角 (ロール、ピッチ、ヨー)
    • 任意の回転を 3 回の単純な回転の合成により表す。詳細の定義はロール・ピッチ・ヨー ― Kinectで学ぶ数学を参照
    • 座標系ごと回転させる
    • ロール、ピッチ、ヨーをそれぞれどの軸に対応させるか、どの順番で作用させるかで結果が変わってしまうため注意が必要
  4. 特定の 2 点の回転前後の座標
    • とくに、直交する 2 つのベクトルを用いるとよい

3D のプログラミングをしていると、API によってどの表現を利用するかが異なることがあります。
以下では、これらの表現を互いに変換する方法について考えます。

■ 行列 → 2 点の座標

任意のベクトルに対して行列を作用させれば回転後のベクトルが求められます。
WPF では演算子 * が用意されています。

■ 四元数 → 行列

四元数の成分から行列の各成分を計算できます (詳細は四元数による回転行列の表現を参照)。
WPF では Matrix3D.Rotate メソッドとして用意されています。

■ オイラー角 → 行列または四元数

ここでは、ヨーは y 軸、ピッチは x 軸、ロールは z 軸のまわりの回転を表し、この順に適用されるとします。
(元の座標系における) ヨー、ピッチ、ロールを表す回転行列をそれぞれ R_y, R_p, R_r とし、それぞれの回転角度を \theta_y, \theta_p, \theta_r とします。
すなわち、

R_y = \left( \begin{array}{ccc} \cos \theta_y & 0 & \sin \theta_y \\ 0 & 1 & 0 \\ -\sin \theta_y & 0 & \cos \theta_y \end{array} \right), R_p = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 0 \\ 0 & \cos \theta_p & -\sin \theta_p \\ 0 & \sin \theta_p & \cos \theta_p \end{array} \right), R_r = \left( \begin{array}{ccc} \cos \theta_r & -\sin \theta_r & 0 \\ \sin \theta_r & \cos \theta_r & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{array} \right)

このとき、座標系ごとヨー、ピッチ、ロールの順に適用した回転は、元の座標系で R_y R_p R_r で表されます (適用の順序が逆になる)。
証明は次のようにできますが、実際の回転をイメージするとわかりやすいと思います。

証明

ベクトル {\bf x} にヨーを作用させると、
R_y {\bf x}
次に、これにピッチを作用させるには、いったん座標系を戻して R_p を作用させるから、
R_y R_p R_y^{-1} \cdot R_y {\bf x} = R_y R_p {\bf x}
同様に、これにロールを作用させると、
(R_y R_p) R_r (R_y R_p)^{-1} \cdot R_y R_p {\bf x} = R_y R_p R_r {\bf x}
(証明終)

WPF での実際の演算では四元数を使うとよいでしょう。

■ 2 点の座標 → オイラー角

ここでは、2 点として {\bf e}_z = (0, 0, 1), {\bf e}_y = (0, 1, 0) を選びます。
これらの回転後のベクトルがそれぞれ {\bf u}, {\bf t} で与えられたとすると、オイラー角は以下の手続きにより求められます。

まず、{\bf u} の x 要素と z 要素の比はピッチおよびロールの影響を受けないから、
\tan \theta_y = \dfrac{{\bf u}_x}{{\bf u}_z}
により、\theta_y, R_y が決まる。

ピッチおよびロールの決め方から、
\tan \theta_p = \dfrac{- (R_p {\bf e}_z)_y}{(R_p {\bf e}_z)_z}, \tan \theta_r = \dfrac{- (R_r {\bf e}_y)_x}{(R_r {\bf e}_y)_y}

また、前項と同様に考えて、{\bf u} = R_y R_p {\bf e}_z, {\bf t} = R_y R_p R_r {\bf e}_y であるから、
R_p {\bf e}_z = R_y^{-1} {\bf u}, R_r {\bf e}_y = R_p^{-1} R_y^{-1} {\bf t}

したがって、\theta_p, \theta_r も順に決まる。
なお、この決め方の場合、回転角度の範囲は、
- \pi < \theta_y \le \pi, - \dfrac{\pi}{2} \le \theta_p \le \dfrac{\pi}{2}, - \pi < \theta_r \le \pi
となる。
(終)

arctan を求めるには、Math.Atan2 メソッドを使うとよいでしょう。

以上により、行列 → 2 点の座標 → オイラー角 → 四元数 → 行列と変換する方法が与えられたので、
回転の表現を相互に変換できるようになります。

では、これらを実装してみます。
ベクトル、行列、四元数を扱うための System.Numerics.Vectors という、WPF のライブラリよりも高機能なライブラリもあるのですが、
今回は WPF のライブラリのみを利用して実装したいと思います。

全体のソースコードは RotationTest (GitHub) にあります。
これらのメソッドを呼び出すテストが付いています。

前回: WPF で 3D オブジェクトを回転させる
次回: Leap Motion で手の回転状態を取得する

バージョン情報
.NET Framework 4.5

参照

WPF で 3D オブジェクトを回転させる

前回の WPF で 3D オブジェクトを表示するに引き続いて、今回は 3D オブジェクトを回転させます。
図のようにボタンを配置して、6 方向の回転ができるように実装します。

次のようにコードを追加・変更します。

ボタンとして RepeatButton を配置しています。
RepeatButton は、押したままにしておけば断続的に Click イベントが発生します。
また回転の状態を表すために、ModelVisual3D.Transform の中で MatrixTransform3D を使います。

回転には、回転軸と回転角度が必要です。

  • 回転軸は、ベクトルで表されます。
  • 回転角度は、回転軸の方向に右ねじを押し込む場合を正とします。

6 つのボタンはそれぞれ、x, y, z 軸を回転軸とした正方向または負方向の回転を表します。
1 回の Click イベントにつき 5° ずつ回転させています。
なお、カメラは z 軸上の正の位置から原点方向を見下ろし、右側が x 軸の正、上側が y 軸の正を表しています。

Click イベントハンドラーの中で、Matrix3D.Rotate メソッドを呼び出すことでオブジェクトを回転させます。
引数には、回転軸と回転角度を表す Quaternion (四元数) を指定します。
このように、回転軸と回転角度がわかっている場合は比較的簡単に実装ができます。

下図は、最初の状態から x 軸のまわりに -60° 回転させたところです。

全体のソースコードは DiceRotationWpf (GitHub) にあります。
マウスまたはタッチのドラッグ操作でも回転できるようになっています。

Dice Rotation

 

前回: WPF で 3D オブジェクトを表示する
次回: 3D における回転の表現と相互変換

作成したサンプル
DiceRotationWpf (GitHub)

バージョン情報
.NET Framework 4.5

参照
3-D グラフィックスの概要
3-D 変換の概要

WPF で 3D オブジェクトを表示する

WPF の 3D グラフィックスの機能を使って、3D オブジェクトを表示する方法を示します。
XAML でさいころのような立方体を描画することを目指します。

Dice (XAML)

先に XAML を示します。この後に簡単な説明が続きます。

 

まず、Viewport3D を配置します。
3D オブジェクトを描画するには次の 3 種類のものが必要で、これらを Viewport3D に設定します。

カメラ
Viewport3D.Camera プロパティに指定します。PerspectiveCamera を使うと、遠近感が出ます。
既定では LookDirection="0,0,-1" UpDirection="0,1,0" となっており、
つまり z 軸の逆方向を向いており、y 軸の正方向が上になっています。

照明
通常のオブジェクトと同様に、Viewport3D.Children プロパティにモデルとして追加します。
AmbientLight を使うと、影がなく、一様な明るさでオブジェクトが表示されます。

オブジェクト
主に ModelVisual3D として定義し、Viewport3D.Children プロパティに追加します。

以下では、ModelVisual3D の設定について書いていきます。
GeometryModel3D でオブジェクトを定義し、ModelVisual3D.Content プロパティにそれを指定します。
複数のオブジェクトをグループ化するには、Model3DGroup を使います。
GeometryModel3D には、マテリアルとジオメトリを指定します。

マテリアル

GeometryModel3D.Material プロパティで、何を表示するかを指定します。
ここでは、さいころの面を描くために 2D の TextBlock を用意しておき、それをテクスチャとして指定しています。
2D の Brush をテクスチャとして利用するには、DiffuseMaterial を使います。

また、BackMaterial プロパティに、Material プロパティと同じものを指定すれば、裏面には表面を反転したものが表示されます。
つまり、「3」の裏面は「ε」のようになります。

ジオメトリ

GeometryModel3D.Geometry プロパティで、どこに表示するかを指定します。
具体的には、MeshGeometry3D を利用して、次のものを指定します。

点の集合 (Positions プロパティ)
メッシュを構成する三角形に分割した場合に、頂点となる点の集合を指定します。

三角形の集合 (TriangleIndices プロパティ)
Positions プロパティで指定した点に0からインデックスを付けて、メッシュを構成する三角形の頂点を列挙します。
三角形の頂点の順番は、表側から見て反時計回りになるように指定します。

テクスチャの位置 (TextureCoordinates プロパティ)
Positions プロパティで指定した各点が、マテリアルの中のどの点に対応するかを指定します。
マテリアルは 2D なので、左上が (0, 0)、右下が (1, 1) です。

例えば、

<MeshGeometry3D Positions="-1,-1,1 1,-1,1 1,1,1 -1,1,1" TriangleIndices="0,1,2 0,2,3" TextureCoordinates="0,1 1,1 1,0 0,0"/>

とした場合は、P0(-1, -1, 1), P1(1, -1, 1), P2(1, 1, 1), P3(-1, 1, 1) の 4 点があり、
メッシュは P0P1P2 と P0P2P3 の 2 つの三角形で構成され、
P0 が左下、P1 が右下、P2 が右上、P3 が左上となるようにテクスチャを描画するという意味になります。
なお、これらの値を XAML 上で列挙するときの区切り文字としては、カンマまたはスペースの両方が使えます。

アフィン変換 (移動、スケール、回転など) について

3D オブジェクトのアフィン変換は、ModelVisual3D.Transform プロパティで指定します。

コードでの記述について

XAML の代わりに C# などの .NET のコードで記述することもできます。
同一の処理が繰り返される場合には、コードで生成したほうが簡単に表現できることもあります。

 

次回: WPF で 3D オブジェクトを回転させる

作成したサンプル
Wpf3DSample (GitHub): コードで描画した例もあります。

バージョン情報
.NET Framework 4.5

参照
3-D グラフィックスの概要
3-D 変換の概要

エスカレーターのシミュレーション

ひたすら人々がエスカレーターで昇っていく動画です。

 

4種類のエスカレーターがあり、右から、

  • 両側とも詰めて乗り、歩かない。
  • 両側とも1段おきに乗り、歩かない。
  • 左側は1段おきに乗り、歩かない。右側は歩く。
  • 左側は1段おきに乗り、歩かない。右側は歩く。ただし、右側に来る人の頻度は低い。

を表しています。

ソースコードは、Tools-2016 (GitHub) にあります。

参照
Escalator Simulator (YouTube)
エスカレーターは歩かずに立ってるほうが結局速い。ロンドン地下鉄が実証

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WPF で外枠にはみ出さないようにする

WPF で、Border や Grid などの枠の中に、その領域をはみ出すようなコントロールを配置して、
それを Transform などで移動させるとします。
すると、そのコントロールの一部が切り取られてしまったり、外枠にはみ出てしまうなど、期待通りの動作にならないことがあります。
以下では、この現象をどうすれば回避できるかを試していきます。
(追記: Canvas で ClipToBounds="True" とすればよい、とコメントを頂いたため、後半に追記しました。)

Blend for Visual Studio で WPF アプリケーション プロジェクトを作成して、
Border の中に Rectangle を配置して、Rectangle を期待通りに動かせるかどうかを調べます。

Window の領域を 4 つに分けて、以下の方法を試してみます。

  • 左上: Border の中に Rectangle を配置するだけ
  • 右上: Border と Rectangle の間に Canvas を配置する
  • 左下: Border と Rectangle の間に ScrollViewer と Canvas を配置する
  • 右下: Border と Rectangle の間に ScrollContentPresenter と Canvas を配置する

ScrollViewer を使うことで、外側にはみ出さないようにします。
スクロールバーを消すために、VerticalScrollBarVisibility プロパティを Disabled に設定します。
また、ScrollContentPresenter は、ScrollViewer の中で使われているコントロールです。

すると、Blend for Visual Studio のデザイナーでは次のように表示されます。
この時点で、右上の方法では外枠の Border の上に描画されてしまうことがわかります。

FrameLayoutWpf

また、この 4 つの Rectangle に対して、TranslateZoomRotateBehavior を設定します。
(Blend for Visual Studio のアセットからドラッグ アンド ドロップします。)
これで、実行時にタッチ操作などでコントロールを動かせるようになります。

全体の XAML は次のようになります。

このアプリケーションを実際に動かしてみます。

FrameLayoutWpf

  • 左上: 初期配置の領域以外の部分は切り取られてしまいます。
  • 右上: Rectangle が枠外にはみ出します。
  • 左下: 期待通りです。
  • 右下: 期待通りの動作ですが、ScrollContentPresenter.Content が既定プロパティではないため、
    上の階層がデザインツールに表示されません。

 

ここで、よねやんさんから、Canvas の ClipToBounds プロパティの値を True にすればよい、とコメントを頂きました。

右上の Canvas を変更して実行してみます。

FrameLayoutWpf

期待通りです。
というわけで、ScrollViewer などは不要になりました。
Canvas を配置して、ClipToBounds="True" を設定するだけです。

 

作成したサンプル
FrameLayoutWpf (GitHub)

バージョン情報
.NET Framework 4.5

参照
UIElement.ClipToBounds プロパティ

C# のコードでデータ バインディング (4)

C# のコードでデータ バインディング (1) の中で Binding Source の条件について書きましたが、
INotifyPropertyChanged でも DependencyObject でもないオブジェクトの場合は少し難解な動作をします。
というのも、プロパティ変更通知ができないはずのオブジェクトに対して、
内部で PropertyDescriptor を経由して双方向のバインディングができるように試みるためです。

POCO である Person0 クラスを利用したコードを以下に示します。

Binding Source 側を変更しようとするとき、通常の

person.Name = "Jiro";

というコードでは変更は通知されません。
変更を通知するには PropertyDescriptor.SetValue メソッドを使います。
なお、変更時のイベントハンドラーを登録するには PropertyDescriptor.AddValueChanged メソッドを使います。

Binding オブジェクトの内部では OneTime バインディングの場合を除き、
PropertyDescriptor.SetValue メソッドおよび PropertyDescriptor.AddValueChanged メソッドを利用して、
プロパティ変更通知を試みます。

このように、オブジェクトへの操作は PropertyDescriptor を経由しなければならなくなるため、
WPF などのアプリケーションでこの方法でコードを書くのは大変です。
また、アプリケーションのコードで person への参照を削除しても、
PropertyDescriptor の中で person への参照を持ち続けるため、メモリリークの原因となるようです。
したがって、Binding Source として使うオブジェクトには INotifyPropertyChanged インターフェイスを実装させるのがよいでしょう。

補足として、PropertyDescriptor の挙動を確認するためのコードを以下に示します。

 

前回: C# のコードでデータ バインディング (3)

作成したサンプル
BindingConsole (GitHub)
PocoBindingWpf (GitHub)

バージョン情報
C# 6.0
.NET Framework 4.5

参照
【WPF】変更通知をサポートしないCLRプロパティの変更通知
【WPF】PropertyDescriptorを取得 / 利用する。